- 会期:2025年12月12日(金)~2026年4月2日(木)
- 会場:諸橋轍次記念館展示室
諸橋轍次は古典の名言は人を教え導き、励まし慰める力を持つと考え、多くの人びとが親しめるように『中国古典名言事典』を著しました。轍次自身が古典の名言を記した墨書から名言の力に触れてください。
諸橋轍次は古典の名言は、あるときは人を教え導き、ある時は励まし慰めるという「人生に対して不思議な力を持つ」と考えます。
とはいえ、大量の古典の中の名言だけを探すのは大変です。轍次自身も「多くの人々に多くの古典を読めよと奨(すす)めることには無理がある」ので、名言をまとめた本があれば「どれだけわが身を修めるに役立ち、人の世を済(すく)うに益するであろうか」と考えてきました。そして「漢学を修め漢学を人に奨めてきたわが身の責任」として、名言をまとめた本を作ることを心に秘めて願うようになりました。
昭和35(1960)年におよそ30年を費やした『大漢和辞典』の全13巻を刊行し終えてしばらく経った昭和37年、轍次は出版社から手軽に読める新書本の執筆を依頼されます。最初は古典の一つ「論語」の名言20から30を解説する本を執筆して自身の秘めた願いを果たすつもりで執筆をはじめますが、「だんだん欲が増長し」論語だけでなく中国の古典250以上を網羅する規模となります。当初の企画よりはるかに大規模となったこともあり原稿執筆に8年、内容の訂正と索引づくりに2年を費やして昭和47年に『中国古典名言事典』は完成しました。『大漢和辞典』が13冊で30年に対して『中国古典名言事典』は1冊に10年をかけており、大変な労作と言えそうです。(出典:諸橋轍次1972『中国古典名言事典』 pp.1-3)
諸橋轍次は『中国古典名言事典』に掲載した古典の名言を墨書に記して、たくさんの人々へ贈ってきました。
例えば、轍次の自宅に下宿していた俳優を目指す若者のためにと論語の里仁篇の一節「喩於義」を記して贈っています。人生で迷ったときには損得より義を考えるべきだ、という言葉です(出典:諸橋轍次1972『中国古典名言事典』p.30)。俳優になろうとする若者へこの言葉を贈って、励ましたのでしょう。
古典の名言ってどう解釈すべきでしょうか?諸橋轍次は古典の解釈は「読む人の心任せにするのがよい」としています。読者が自分に引き付けて解釈したほうが良いということです。轍次自身、大学を退職した69歳で論語などの古典を読み返したときに、少年時代に読みふるした古典なのに別のものに感じたと記しています。その体験などから古典は読者が自由に解釈できる「無礙自在(むげじざい)」なものだから現代まで伝わったと考えます。
例えば「行不由径」。諸橋轍次は「大道をまっすぐに進むがよい」「小道はやがて行きづまりがくる」と解説しますが、こんな解釈はどうでしょう?
テストの前に「一夜漬けで良い点取れないかな」って悩んだときに、「一夜漬けの知識はやがて行きづまる小道だ」「実力をつけるなら毎日の努力が大道だ」と自分に言い聞かせるために「行不由径」と唱える。
皆さんも自分に引き付けて自由に解釈してください。
*出典:諸橋轍次1972『中国古典名言事典』pp.1-2,p.35



